障害年金は運が大切?
もくじ 1【障害年金は運が一番大切!?】 |
【障害年金は運が大切!?】
「本当に奇跡です。受給が決まって本当に良かったです。ありがとうございます。」
障害年金の支援をしてきて、時々こういったお声を頂きます。
約10年間、障害年金申請のご支援をしていて、運の良い人、運の悪い人がいる事を痛感することがあります。
【運の悪い事例 TOP4】
① 滞納未納なく、保険料を納めてきたのに「初診の病院が廃院した。」為証明できず不支給。
② 滞納未納なく、保険料を納めてきたのに「5年前以上前なのでカルテ破棄」されてしまったため不支給。
③ 「医師が作成した診断書の内容が適切でない。(間違っている)」(法令基準で記載されておらず障害状態が適切でない、就労状況など基本実態情報が間違っている、抜け漏れがある、年月日など事実関係が間違っている等)などから不支給。
④ 「医師が診断書を作成しない為」申請を断念。
- 「私の患者の中では軽い方だから、障害年金なんかもらえないよ。だから診断書は書かない。」
- 「私のところに来て診察を受けているじゃない。受診できるような人は、障害年金もらえないから診断書は書かない。」、「寝たきりじゃなければ、障害年金はもらえないんだよ。診断書は書かない。」
- 「神経症は、障害年金もらえないよ。だから診断書は書かない。」
- 「障害年金なんかもらうと甘えて、病気が治らなくなる。だから診断書は書かないよ。」
上記の4つのケースは、比較的よくある相談事例です。
上の①、②のケースは、医療機関の文書保存期間が5年と定められている為廃棄されてしまうものです。また、医療機関の廃院等では、カルテについて引継ぎなどの義務は無く実態として無となってしまうのが現状です。これにより法令要件を証明できなくなります。こういったケースが当然起こりうることや、実際の発生事案を把握しているわけですが、厚労省、年金機構は法改正等必要な対応を行っていません。
上記③について厚労省・年金機構は、障害者基本法、社会保険諸法令について専門性と知識を持ち合わせていない医師が診断書を作成することに問題がある事を理解しています。
正しい、診断書の書き方(記載要領)などを作成し、医師に注意を呼び掛けてます。しかし、法令的素養(教育課程には年金や障害に関する法令科目は無い)、社会的素養(特に一般の労働市場、労働慣行等の専門知識)を持っていない医師が数ページの記載要綱を見ただけで解決することが困難である事は明白です。
障害年金で求められる「障害」は、通則法で定められています。一般の医師が想定する「機能的障害」、「能力的障害」とは異なる視点で、はるかに大きな範囲での「社会的障害(障壁)」までを記載することを求められているのです。
法令はもちろんの事、労働経済について、労働力人口、就業動向、労働力需給動向など広範囲で専門性を担保しなければ正確に書く事は出来ないのです。
実際の現場では、障害者やご家族からのヒアリングを行い、私どもが法令基準で確認し、医師の作成した診断がどのくらいズレがあるかを判断します。法令で定める「障害」は、決して医師の経験値や医師の担当する患者間の相対的な基準で判断するようなものではありません。ですから、「障害は医師が決めるものだ。」などというものでは無いのです。いよいよ真正な内容の診断書が作成できない場合は、医師を替える事もあります。同じ患者であっても、担当医師が変わったとたんに、病名も障害状態の記載も変わってしまうこともまれではありません。
これまでも頻繁に厚労省の専門家委員会等で、医師が作成した診断書の内容が適切な障害を表わしていない点を問題として取り上げています。また障害者団体からも、診断書の内容が患者の実態と遊離している問題点について指摘され、要望が出されています。
しかし、医療分野でも手一杯の医師がさらに法令まで熟知することは無理です。私たち社会保険諸法令に慣れている社会保険労務士でも、年金法で600時間~、障害者関連法で600時間程度~の座学。業務能力を担保できるレベルでの習得は最低1,000時間は必要であるからです。
【運をよくするためにすべき事 TOP3】
運を良くするために出来ることが3つあります。
1. 優秀な医者を探す事
2. 担当する医師に障害の状態をきちんと伝える事
3. 障害年金を熟知した社労士を探す事
1. 「優秀な医者を探す事」
とにかく優秀な医師を探して、受診することです。優秀とは職業能力もさることながら、人間としてもです。優秀な医師との出会いがあれば、障害年金を申請する過程の50%はクリアできたようなものです。では優秀な医師とはどういう医師でしょうか。過去コラムに書いた「優秀な医師とはどんな医師か?」をご覧ください。
2. 「担当する医師に障害の状態をきちんと伝える事」
医師は神様でも仏様でもありません。多くは善良な普通の職業人です。患者の日常生活、仕事、家族との関係、困っている事、障害状態など、患者さんからの情報が無ければ知ることはできません。
そして、私たちが妄信しがちなことですが、医師だからと言って全員が優秀なわけではありません。
どの業界、職域であっても、ピンキリ。標準偏差的に考えると15%のやぶ医者、70%の普通の医者、15%の優秀な医者が分散しているぐらいに考えておいた方が無難です。お医者さまに過度の期待、過度に妄信してはいけないのです。まずは自分の権利を行使するためには、患者自身が伝える努力をしなければなりません。(本人が出来ない場合は、ご家族やサポートしている私たちのような専門家がお手伝いすべきです。)
3.「障害年金を熟知した社労士を探す事」
私の考えですが、障害年金は、社労士の仕事の中では少し異質な仕事であると考えています。(社労士会では、誰が申請しても結果は同じであるとの認識を表明しています。)その他の、多くの社労士さんの仕事は、誰が行っても結果が同じであるといえます。
なぜかと申し上げますと、申請データのほぼすべて、官公庁が保有しているからです。それに対して、障害年金の受給要件を証明する申請データは、「年金記録」以外は官公庁にはありません。
申請者が自身で揃えなければならないのです。また上述した通り、運が悪いとデータ自体が失われていたり、不備のあるデータ(真正でない、法令基準とずれている等)であったりするのです。
申請者自身が証明義務を負う「申請主義」において、内容の真正性、法令基準と齟齬がないかなどを理解、熟知した社労士を探すことが大切です。
障害年金の高い専門性を持った社労士は、「運まかせ」の部分を法令基準で確認して齟齬を失くし、真正な内容で申請を行う仕事であると考えています。
私の体感イメージとしては、障害年金の申請を300件以上、年間の相談件数300件以上、受給率90%以上が一つのボーダーではないかと考えています。
また最も大切なことは、プロとして「間違った内容では申請しない。」という信念を持っているかどうかという事が一番大切な事であると思います。
・「診断書は、医師が決めるもの。間違っていても医師の領域には踏み込まない。」
・「患者さんの障害状態が、法令基準と明らかにずれていても、医師との関係性を悪くしないように妥協する。」
・「診断書確認の依頼をした医師からクレーム電話が入ったので、間違いっているとは分かっていてたが、依頼を取り下げた。」
などのお話をよく耳にします。(しかし、法令基準と異なる間違った内容で申請を行うと懲戒処分の対象となります。(社労士法第25条の2 懲戒処分「真正の事実に反して申請書等の作成若しくは事務代理を行う」)
私たち社会保険労務士は、誰の為に仕事をしているのか。そしてなぜ業務に独占的立場が認められているのか。これは社会保険労務士の持つ専門的職能に対する社会の信頼に基ずくものです。社労士法第1条二に定める「品位」とは、これに答える社会的責任を保つことを意味しているのです。
医師の社会的な地位知名度に比して、社労士は社会的地位、知名度ともに低いと感じている社労士の方も多くいらっしゃることでしょう。医師に対して、年金の専門家として適切な意見を言うこともできない方がいらっしゃることも理解しております。しかし、プロとしての品位を思い出し、障害者の権利擁護の為に働きたいと考えております。
【まとめ】
障害年金は、障害者の権利であると考えています。誰もが障害によって生活困窮に直面したときの支えとなり、自立するために当然支給されるべきものです。
しかし、現在はまだ「当然の権利」は多少の運任せの部分があります。国の制度やもろもろも100%完全ではありません。誰かの不備を非難していたも問題の解決にはなりません。
もちろん運よく「自分で申請して、簡単に受給できた。」方もいらっしゃいます。しかし、当然の権利を「実現するためには多少の努力も必要であること」はご理解いただきたいと思います。
私たちは毎年約600件、障害のある方、医療機関、特別支援学校等からの相談をお受けしています。その中で私達障害年金相談センターは毎年約100件の方のご支援を続けてきております。
相談者様の中で約2割程度の方は、上記のような状況から申請自体を断念せざるを得ない方がいらっしゃいます。
障害年金は、「国民年金法・厚生年金法」に定められた年金制度です。受給権を得るには、法令で定める3要件を満たしている事を、申請者自身が証明する必要があります。
障害年金は、申請者が証明する責任を負う、いわゆる「申請主義」です。
ここまでご覧をいただきありがとうございます。障害年金に関するご相談がございましたらお気軽にお問い合わせください。