正しい内容の診断書を書いてもらうためには?
目次 1. 診断書とはなにか? |
1. 診断書とはなにか?
障害年金申請において、もっとも重要な書類の一つが「診断書」です。
一口に「診断書」と言っても用途や内容によって数十種類の「診断書」があります。
大きく分類すると以下の4つに分けられます。① ~③の診断書は、医療情報としてカルテ等に記載された内容から作成することになっています。
① 会社、学校等の所属機関に提出する診断書
会社等が従業員の休職、出欠席などの判断材料とするために、医師が作成するもの。内容は、病気・怪我の発生・経過・程度・予後など診療行為に関する事務的な内容。
② 民間保険会社の保険請求用の診断書
民間保険会社が、自社保険商品の保険金請求用に任意で定める診断書。各メーカー毎に異なる任意様式があり20種~30種類程度。 内容は、病気・怪我の発生・経過・程度・予後など診療行為に関する事務的な内容。
③ 公的な制度、福祉・社会保険制度等に関する診断書
10種類程度。内容は、病気・怪我の発生・経過・程度・予後など医師が行う「診療事務行為」に関する事務的な内容又は医師による労務不能の証明等。死亡証明も含まれる。
⇒記載内容は、診療情報(カルテ等)に基づき記載できる内容が主。傷病手当金、傷病補償給付などでは、労務不能などの記載も求められるが、個別的条件内容(患者の職種、職能、職場環境、労働条件など)を精査したうえで判断するような実態はなく、担当医の知見・主観的判断で記載されているケースが多い。
④ 障害年金用診断書
疾病毎に8種類の診断書がある。
内容は、①病気・怪我の発生・経過・程度・予後など診療行為に関する事務的な内容と②治癒後(症状固定後)の障害状態の証明。主に日常生活制限と労働制限について証明するもの。
種類は違いますが、ざっと50種類弱の「診断書」の作成義務を医師が負っていることがわかります。
2. そもそも医師とは何をする人なのか?
医師とは、患者の求めに応じて、診療することを約す医療契約を結び(準委任行為(民法656条)、診療という事実行為を行う職業に従事する者です。
診療するという事実行為の対価として診療報酬を請求し、患者は診療報酬を支払う契約となっています。
ここでいう医療契約とは、「診療を、患者に対して行うという事実行為のことであり、疾病治癒を約束するものではありません」
あくまで、医師は自らのできうる限りの医学的知識を用いて患者を診療することだけが仕事なのです。
そもそも「委任行為」とは、委託された者が、所期の効果の実現を目的とする契約行為です。つまり、目的物や目的の実現を、委託先に依頼し、実現させる対価として報酬を支払う形であるといえます。
この点で医療契約は、疾病の治癒、完治までは含まない、単に「診療行為」をするだけで報酬を受け取る「準委任契約」と解釈されています。
3. 医師が、「障害年金用の診断書」の書き方を知らないことは当たり前?
医師は医学部に入学し6年間の教育期間、病院実習に参加し、国家試験に合格し医師免許を取得。医師免許取得後、研修医として2年間、前期臨床研修を行います。
その後、標ぼうする診療科目に関して、後期臨床研修を行い、職業生活を始めることが主流となっているようです。
各大学によって授業科目、授業計画は若干の差があります。
しかし主要な大学医学部(東京大学、日本大学、慶応大学などの)のシラバスを確認すると「診断書の記載方法、法令、社会福祉」などの科目を見つけることはありません。
かろうじて、社会医学科目が関連科目になるはずですが、内容としては「保健・医療・福祉の現状を理解し、分析する」といった概要程度の内でしかなく「診断書」に踏み込んだ授業はないようです。
(私の調べた範囲、友人、知人である複数の医師へのヒアリングを行った限りの内容です。もし教育課程等で診断書作成科目があるようでしたらお教えいただけますと幸いです。加筆・修正させていただけます。またこの記事は他者を誹謗中傷する事を目的にしていません)
病院実習、臨床研修を通じてOJTのなかで覚えてゆくというのが実態のようです。
私たちが障害年金申請のサポートを行い、お付き合いのあった新潟県内の医師においては、ほとんどの医師が障害年金の診断書を作成したことがありました。
この8年間で4人の医師から「障害年金の診断書を書いたことがない」とお問い合わせをいただきました。その際には診断書作成の料金まで相談していただきました。法令をご説明し、記載要領等をお渡しし、きちんと法令基準で作成していただけました。
医師は診断書の重要性や役割、法律的な意味などを体系的に学ぶ機会がないということになります。
あくまでOJTや指導医の指導の中で、診断書を書く機会があるかどうか、指導医の知見の差、優劣によって診断書の品質に大きな差が出てくることは容易に想像できます。
実際の診断書は
私は、「障害年金用の診断書」を毎年80枚~120枚を確認しています。
おおよそにはなりますが、7割の診断書には、抜け、漏れがあります。
特に「障害年金の診断書」では日常生活制限を具体的に記述することが求められています。
この重要な日常生活での制限について記載がない診断書が非常に多く、診断書として機能しない不完全なものと判断するものは、医師に返戻し再確認して頂いています。
また記載欄に記述があっても、記述内容が具体性に乏しかったり、「~と考えられる」など医師の推測のみが記載されているなど「診断書の目的」を理解していないものが散見されます。
診断書の約3割程度に間違い、又は整合性が取れない表記があります。
特に多い事項は、日付、受診歴(医療機関名、受診期間等)、就労状況(就労の有無、職種、給与額、就労日数等)の間違いです。また「法令で定める用語」概念(意味)と、医療現場での用語の概念(意味)が異なるために、内容が不整合、間違った内容となるケースも多くみられます。
単純ミスの場合はまだ良いのですが、半数以上はそもそも患者情報を持っておられません。就労状況、受診歴、日常生活の状態などを知らないケースばかりなのです。
診療科目により差がありますが、医療情報(カルテ)開示請求をして内容を確認すると、患者情報、日常生活状況など全く記載がないカルテが多くあります。これでは診断書に記載すべき情報を、正確に記載することが難しいことは理解できます。
・おおよそ7割の診断書に漏れ、抜けがある |
4. それでも「正しい内容の診断書」を書いてもらうためにすべきこと
優秀な医師を探すこと
医学部入学時点で、医師を志す人はある一定レベルの知性を持っているはずです。
しかしどのグループ、組織、職業群であっても、優秀さや頭の良さは均質にはならずに、釣り鐘型の分布となることが知られています。(正規分布の確立密度関数などを参照ください)
グラフにすると、縦軸Yを人数、横軸Xを優秀さの指標としてグラフ化すると。右に移動していくと、不良群が15%程度、約70%の普通が中央値を挟んで分布し、右端の15%が優秀な人の分布となります。
もちろん「優秀さ」と言う指標は業種、職種によって異なるものであり、一律比較はできません。しかし頭が良いと考えられる医師であってもピンキリであることは、だれもが経験的にも理解できるでしょう。
私は、新潟県内で約400件超の障害年金サポート、約600枚以上の「障害年金の診断書」を作成依頼しました。作成していただいた診断書の記載内容は、法令に照らし合わせてすべて確認作業を行ってきました。
数百人の医師との接点があったわけです。多くの方は普通の善良なお医者さんであることは間違いありません。
私と医師は、分野こそ異なりますが、お互いに「患者の幸せ、権利擁護」という共通目標のために働いていると、共有していただいていることを感じています。
しかし、問題は分布の左側にいる「医師」が存在することです。詳細は別にゆずるとして、こういう医師を選ばないことが「障害者自らの権利」を守る一番大切な事であると思います。
では、優秀な医師とはどんな医師か。
まず一番感じることは、患者も含めて、他人の話を聞くことができることです。
私が接してきた優秀な医師の特徴は以下の3点です。
1. 患者の話をよく聞くことができる |
多くの医師は善良な普通の人です。
しかし、医師は万能ではありません。あくまで治療行為という領域の職業人です。
ごく一部の優秀な医師であれば、診察前、診察、診察後のあらゆる機会を通じて情報収取、情報分析、診断し患者の日常生活の障害状態を推測ができるかもしれません。
しかし、一般的な医師にそこまで期待することは酷なことです。患者からの正確な情報がなければわからないことの方が多いはず。
私の友人である医師は「医者だからって、患者のことがなんでもわかる訳がない。仕事や、買い物、友人関係、学校での状況なんて知らない。聞いたってわからない。圧倒的にわからないことの方が多いんですよ」と本音を話してくれました。
やはり、患者側も診療について勉強し、医師に伝える努力をすべきです。医師だからと言って、患者の生活状況、患者の職業生活、経歴まで何でもわかるはずがないのです。
そして、患者が自身の事柄を伝える努力をした時に、真摯に受け止めてくれる医師は間違いなく優秀な医師であると思います。
なぜなら、優秀な医師は、自身が無知であること理解しているからです。
それは私たち社労士への対応でもわかります。他の専門家の意見を真摯に聞き理解する努力を惜しまないからです。
5.まとめ
・優秀な医師を選ぶ |
専門性の壁や情報格差から、医師は患者に指示・指導する立場であった時代が長く続いてきました。情報格差の縮小、隔離から共生、「矯正」から「受容」などの流れが医療業界を少しずつ変えてきています。
医師も患者も、治療のために双方向の努力が求められます。
特に「障害年金」という社会保障分野については、医師の専門外の領域です。私のお付き合いのある新潟県内の多くの医師は、専門家である私達、社会保険労務士の説明を真摯に受け止め、理解していただけるようになりました。
しかし「障害者基本法」、「民法」、「国民年金法・厚生年金法、施行令」、「社労士法等」を知らずに、「障害年金の診断書」を作成し続けなければいけない医師は、本当にかわいそうでなりません。医師法で診断書の作成義務があるために作成するわけです。しかし「障害年金の診断書」に関しては作成すべき専門性、能力が無いことが明確であるにも関わらず作成しなければならない現状だからです。
自らが作成する「障害年金用に診断書」が正しいのか、間違っているのかわからない恐怖。正誤がわからない中でも、独自の基準で患者に説明する責任。
もっとも重責となる事は、「障害年金の受給の可否」を左右する怖さ、間違った診断書で受給権を得ることができなかったときの責任ではないでしょうか。多くの誠実な医師は、「患者の幸せ」を見ています。それが故にストレスとなるのです。
また今は「独自の基準で作成した診断書」の誤りに気付かなくとも、気づいた時には多くの障害者の社会保障権を奪い、人生を狂わしてしまったことに苛まれます。また、ここに述べた事実が表面化してくれば「障害者への経済的虐待」、本来受給できるべき障害者に「経済的損失」を与えることは、これから大きな社会問題化してくると考えています。
本当に医師の方の置かれた状態をかわいそうであると感じます。
障害年金は、障害者基本法に定める「障害」について、「憲法の生存権」、社会保障を「国民年金・厚生年金法」に法令として定めています。
法令に沿って施行令等、作成要領、認定要領等を定めています。つまり、医師の経験値、独自基準などで記載すること自体が間違っているといえます。
「私の患者の中では、軽い方ですから障害年金はもらえないですよ」
「寝たきりにならない患者はもらえません。あなた受診できているからもらえませんよ」
「私なりにできる限り、重めに書いておきました」などと患者に説明する医師も少数ですが、まだまだ存在しています。
患者はこの点を理解したうえで、優秀な医師を探すこと、医師に伝える努力、法令で定める正しい障害基準を理解していただく努力をすることが自らの社会保障権を守ることにつながることを理解していただく必要があります。
(このコラムは他者を誹謗中傷することを目的としていません。できうる限りの注意を払い、正しい内容で作成しています。私どもが知りえない事実などがございましたらご教示いただけますと幸いです。今後の業務に活用させていただきます)
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障害年金を申請するポイントとして「病院の診断書」がとても大切になることはお分かりいただけたでしょうか?
当事務所では過去に障害年金申請の際に実際に対応して頂いた病院を点数化いたしました。少しでも障害年金を申請する方の助けになりましたら幸いです。
※障害年金の申請を必要とされる方が、少しでも安心して医療機関に診断書等を依頼できるようにという思いで作成いたしました。決して第3者を誹謗中傷するような意図はございません。
※評価基準は各病院のリンク先に記しております。
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